ふわふわとまるでその心情を表わすように、栗色の髪が揺れていた。アイドルとして振りまいているもの以上の笑顔を浮かべて藤森はコーヒーを準備していた。リビングでは気だるげに頬杖をつきながら佐久間がテレビを見ている。藤森が番組の景品として貰ったソファに腰を下ろさず床に座って、見たいわけでもないドラマをぼーっと見つめていた。

「佐久間さん、ソファに座ってっていつも言ってるじゃん」
「いつも畳に座ってんだから構わねぇよ」
「フローリングだよ、うち」
「絨毯敷いてあるから平気だろ」
「…絨毯じゃなくてラグなんだけど……」
「知るか」

洒落た名前使いやがってとぼやく姿に藤森はしょうがないなと肩をすくめて淹れたてのコーヒーを差し出した。佐久間と藤森はひと回りも年齢が離れており、見ているもの感じているものを含め様々なことが違っていた。今のように横文字を使えばわけがわからないという表情を寄こすのが常であった。けれど一緒にいて苦に思うことはなかった。藤森を一個人として扱い、尊重してくれる佐久間の存在が藤森の中で非常に大きなものとなっているからだ。

差し出されたコーヒーを当り前のように佐久間は受け取り口に含む。うまい、なんてことは言わない。けれど満足そうな表情に藤森は笑みを零した。

「あ、そうだ。この前シングル出したんだ。佐久間さんに一枚あげるよ」

思い出したように藤森はテレビ台の横にあるラックから新品のCDを取り出し佐久間に差し出す。ちらりとそれを一瞥して佐久間がぽつりと呟いた。

「……いらねぇ」
「え、なんで!?貰ってよ!」
「もううちにある」

こちらに視線も寄こさずぶっきらぼうに告げられた言葉を一瞬理解できなかった。けれどすぐに藤森は言葉の意味を理解してCDに視線を落とした。

年齢だけではなく見た目からして硬派な佐久間が、藤森が所属しているアイドルグループのCDを買うとは思えなかった。今時分ネットで購入することもできるが、欲しいものは足を運んで自分の目で選ぶという佐久間はそんなことしないだろう。

「…ま、マジで?佐久間さん買ってくれたの!?ありがと!すっごい嬉しい!」

自分のためだろうがなんだろうが買ってくれていたことに藤森はガッツポーズをして嬉しさを素直に表わす。100点を取った小学生のように藤森ははしゃいだ。買ってくれたことももちろんうれしい。それよりも何より藤森のことを考えてくれていたことが嬉しかった。そんな藤森をことりとマグカップをテーブルに置いて向き直った佐久間が口を開いた。

「いや、お袋が買った」
「……え」

あっさりとネタばらしをされ藤森は両拳を握りしめたまま固まった。あまりに間抜けな姿だったのだろう、佐久間が堪え切れないとばかりに声をあげて笑いだした。

「ぶっ…間抜けな顔すんじゃねぇよ!はははは!!!」
「ひ、ひどっ!なんだよ、そうだったら初めから言ってよ!恥かいたじゃんか!」
「悪い悪い」

くしゃりと頭を撫でられて、藤森は拗ねたようにそっぽ向いた。自分ばかり佐久間のことを考えているようで悔しくもあり、恥ずかしくもあった。藤森の心情を知る由もない佐久間は撫でていた手を下ろして再びコーヒーを飲み始めた。ひと口ふた口飲んだところで佐久間が動きを止めた。

「…冷めたなら淹れなおすよ」

淹れたばかりなのにそれはないだろうと思いながら声をかける。するといや、と首を振って佐久間が藤森の顔を見つめる。少し真剣な表情にどきんと心臓が鳴った。

「佐久間さん…?」
「お前、やっぱあんま歌うまくないよな」

藤森は再びがちんと体が固まるのを感じた。

「ひ、人が気にしてることを!!!!!」
「はは、悪い悪い」
「佐久間さんひでーよほんとに!」

悪気なく笑う姿に悪態をつきながらも藤森は言うほど気分を害してはいなかった。惚れた弱みってやつかななんて心の中で呟きながら少しさめてしまったコーヒーを口にする。さて、どうやって仕返しをしてやろうかなんて考えながら久々のオフを楽しむのだった。